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控訴審第3回期日の報告

 

原告訴訟代理人弁護士 川村 遼平

 

 

期日の概要
 

 2021年6月1日(火)午前10時30分から、控訴審第三回期日が大阪地裁・高裁本館の202号大法廷でおこなわれました。
 まず、フジ住宅が、自社の主張を記載した書面(準備書面)を陳述(裁判手続きに正式にのせること)しました。
 次に、私たち弁護団も、準備書面を陳述しました。フジ住宅の行為が、民族差別を禁止する労働基準法3条に違反するという内容です。
 続けて、裁判長から、フジ住宅側に対して、外国人社員の比率を示す客観的なデータを提出するようにと要求がありました。
 最後に、双方の弁護士が、口頭で意見を陳述しました。こちらは、私が意見を陳述しました。内容は下記のとおりです(なお,フジ住宅代理人及び今井会長代理人の意見陳述の内容は、フジ住宅の「訴訟・裁判に関する当社の主張」ブログに掲載されています)。

 

原告側代理人の口頭意見陳述
1 一審被告らは、一審被告らの表現の自由を強調し、本件の実態が特定の言論そのものを封殺しようとするものなどと繰り返し主張しています。しかし、一審原告が何度も述べてきたとおり、また原判決も認めたとおり、本件は、職場における労働者の人格権保障の問題であり、一審被告らの差別的な文書の配布による職場環境の悪化、一審原告の人格権侵害が問題となっています。言論の封殺が目的ではありません。
 一審原告第7準備書面においては、本件が職場環境の問題であることを踏まえて、一審被告らの文書配布行為が、労働基準法3条に違反するものであり、同条の趣旨に照らし、不法行為責任を免れるものではないことについて述べます。

 

2 労働基準法3条は、使用者が労働者の国籍等を理由として労働条件を差別的に取り扱うことを禁じています。
 その趣旨は、憲法14条の平等原則に由来するものです。労働者が自己の職場において他の人とは異なる処遇を受けないよう、使用者に格別の義務を課した点に、本条の意義があります。

 

3 本件文書配布行為は、差別的取扱いに当たります。使用者が特定の国籍を持つ人を対象とする差別的言動を繰り返すこと自体が、その国籍を有する人を差別的に取り扱う行為に当たるからです。
 賃金や労働時間といった単純に数値化できる条件のみが平等であればいいというものではありません。過去には、特定の思想を有する労働者グループを攻撃するような使用者の行為が問題となった事例もあります。
 本件文書配布行為は、特定の国籍を有する労働者に対してだけ、その国籍に関し否定的に評価する言動を全社的に繰り返すという点で、その国籍を有する労働者を差別的に取り扱うものなのです。
 ヘイトスピーチ規正法に違反しない程度の表現であっても、明確な違法行為に当たります。業務上の必要性を理由とする正当性も認められません。

 

4 労働基準法3条は、条文上、性を理由とする差別を対象としていません。しかし、司法関係者に日本国籍者が多く、国籍差別の問題を具体的に想像することが相対的に難しいので、性に関する差別的言動と照らし合わせて考えることが有益です。
 一審被告らは、全社員一律に文書を配布している点を、「差別ではない」ことの根拠であるかのように主張しています。しかし、これは差別であるかどうかの考慮要素にはなりません。
 たとえば、全社員が参加する朝礼において,社長が「女性は嘘つきだ」などの差別する発言を行ったことを想定してみます。全社員が一律に聞いたのだから差別には当たらない、という人は、まずいないでしょう。
 社長がみんなの前で特定の性的指向を有する人について、「理解しがたいかわいそうな人間だ」などと発言した場合も、これと同じです。本件文書配布行為は、これらと同列の問題です。
 セクシュアルハラスメントによる労使紛争の積み重ねにより、現在では、被害者が女性である場合には平均的な女性労働者の感じ方を基準とし、被害者が男性である場合には平均的な男性労働者の感じ方を基準とすることが適当だとされています。
 社内の広報で、「韓国人は嘘つきだ」、「理解しがたいかわいそうな国民性」だ、などと言われれば、よほど使用者に心酔していない限り、当惑したり傷ついたりすることは、想像に難くありません。中国や朝鮮半島にルーツを持つ平均的な労働者の感じ方を基準とすれば、本件文書配布行為は、差別的言動に他なりません。

 

5 一審原告は、労基法3条の趣旨にも触れた上で一審被告らの行為が権利侵害行為に当たることを主張してきました。その主張の一部は、原審においても正しく判断されています。
 しかし、労働基準法3条に違反する行為であることを明確に認めなかった点で、原審は不十分です。
 一審被告らの文書配布行為は,労働基準法3条に違反する行為です。

 以 上

 

 

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