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​控訴審第1回期日のご報告

原告訴訟代理人弁護士 南部 秀一郎

 ヘイトハラスメント訴訟は、皆様のご協力もあり、2020年7月2日に大阪地裁堺支部より原告勝訴の判決を頂きました。しかし、原告被告双方より控訴し、原告側からは新たに会社のヘイト文書配布の差し止めを内容とする訴えの拡張、変更を行いました。地裁判決の内容や、訴えの変更については支える会会報19号において、詳しく説明をしています。本報告では、控訴提起後の訴訟の状況を控訴審の第1回期日の報告とともに述べていきます。
 

1 被告人会長、会社の控訴
 被告人会長、会社はともに2020年7月6日付で控訴状が提出されました。これは判決の翌週の月曜日です。その後、控訴理由書が提出されましたが、その内容は端的にいうと、原告の被害は単なる不快感に過ぎず、被告は原告の思想信条の自由を侵害しておらず、地裁判決は権利侵害のおそれでもって損害賠償を認め不当だというものでした。また、双方から会長や会社の表現の自由が侵害されている、今回の判決で会社会長以外にも侵害が広がるなどという主張が繰り返されていました。

 

2 原告の控訴
 一方、原告側も控訴を行いました。その内容は既に支える会会報19号において報告済です。

 

3 控訴答弁書の提出
 続いて、原被告双方は答弁書を提出しました。被告答弁書は、会長会社の連名での提出となり、内容的にも理由書の繰り返しでしかありませんでした。
 一方原告からの控訴答弁書においては、被告会社会長の主張に対し、会長らの表現の自由の強調や被害の矮小化をとらえ、会社という場であることや従業員の関係上の弱さ、また被害についてはヘイトスピーチの法規制が進む状況を述べ、会社会長の控訴自体が本件の問題を全く無視したものであると結論付けました。

 

4 進行協議期日
 控訴での書面提出を見て、12月には原告、被告双方の代理人が出席し、進行協議が行われました。まずこの進行協議においては尋問についての打ち合わせがなされました。なぜなら、この間に被告側からは新たに2人の幹部社員の尋問の申し出があったからです。また、原告も控訴審で新たに差し止めを求める以上、原告が損害賠償判決では止まらない被害の状況を尋問で述べることが必要であり、控訴審での原告の再度の尋問を申し出ました。
 加えて、レイシャルハラスメントに関する欧米での取り組みについて、特に大学や会社でのレイシャルハラスメントポリシーについて裁判官から強い関心が示され、原告から追加の証拠提出がなされることになりました。
 差し止めについては、差し止める行為を特定するために必要な行為目録を定めるために具体的に行為の態様をまとめることが原告側に求められました。
 なお、この期日がなされた12月はコロナ患者の発生数が急増しており、進行協議期日の代理人の出席人数すら制限がされる状況でした。結果、口頭弁論でも傍聴人数が制限され、原被告に傍聴券を割り当てることとなりました。

 

5 第1回口頭弁論期日
 第1回口頭弁論期日ではまず、期日間に提出された書面の確認がなされました。また、差し止めについて前項で述べたような差し止めの範囲となる行為の特定のための追加を裁判所が求め、追ってその部分を原告側から主張することとありました。その追加を待って次回期日以降原被告でやりとりが行われることとなります。
 さらに、既に決定していた次回期日(2021年4月20日14時)に加え、次々回(6月1日10時30分)、さらにその次の期日(7月13日14時)まで決まりました。これは、先に大法廷を確保し、控訴審での審理を早めるためだと思われます。そして、7月13日の期日については、尋問期日となるのではないかという話を裁判長が述べました。ここで、被告人側証人として申し出があった人物について述べると、元韓国籍であったというバックグラウンドを持つ社員です。これらの社員に会社内に差別がないとの主張を行わせる様子です。
 その後、原被告双方から意見陳述がされました。原告側からは村田弁護団長が控訴の趣旨、差し止めを求める趣旨を述べ、控訴審では、この裁判は労働者が職場内で差別にさらされない職場環境を求めるものであること、労働者の思想信条の自由、市民的自由を保障し、自由な人的関係を形成する権利を保障するものであることを忘れずに、判断がなされることを求めました。
 続いて原告本人からは、地裁判決後の文書配布の状況と心情が述べられました。その中には判決のネットニュースの記事とともに「本国に帰れば」とか「金目当て」などというコメントが付されているものもあり、また、同じ職場の社員の感想文も配布され、原告が社員と口頭で仕事の話をするのもはばかられる状況であることが語られました。その中にありましたが、地裁の提訴後の社員の感想文の中に「これから本物のヘイトスピーチがはじまる」という脅迫めいた内容のものがありました。判決後の会社内の状況はこの内容に沿ったものといえるかもしれません。
 被告側からは被告側の書面に沿った意見陳述がされました。

 

6 最後に
 控訴審はコロナの第三波の中、傍聴に制限がある状況で始まりました。支える会の皆様には中々お会いすることもできず、裁判の状況がわかりにくかったこともあったと思います。しかし、原告は今でも従前と変わらない、いやひどくなっている会社で働きながら、訴訟を闘っています。変わらず支援をいただければありがたいです。

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