控訴審第2回期日の報告
原告訴訟代理人弁護士 安原 邦博
はじめに-今後の期日予定について
2021年4月20日(火)14時から、控訴審第二回期日が大阪地裁・高裁本館の202号大法廷でおこなわれました。まず、重要なお知らせです。今後の期日ですが、次回は6月1日(火)で10時30分開始、次々回は7月14日(水)で14時開始です(次々回は7月13日ではなく、14日です)。いずれも202号大法廷でおこなわれます。7月14日は、フジ住宅の社員2名と原告の尋問をする予定で、この日で結審(審理の手続きを終結させること)となる可能性があります。
差し止め書面の陳述
4月20日の第二回期日では、フジ住宅及び今井会長による人種民族差別的資料及び原告個人攻撃の資料の配布を差し止める請求の追加(訴えの変更)の書面を陳述(裁判手続きに正式にのせること)しました。
これに併せて、私から、下記のとおり法廷で意見陳述をしました(なお、フジ住宅代理人及び今井会長代理人の意見陳述の内容は、フジ住宅の「訴訟・裁判に関する当社の主張」ブログに掲載されています)。
1 本件では、一審被告今井と一審被告会社が、公共空間においてその思想を他者に伝達することの是非が争点となっているのではありません。本件は、一審被告らが極めて優越的な地位にある閉じられた職場空間である一審被告会社内で、一審被告らがその優越的地位を利用し、一審被告今井が是とする資料のみ(その中には大量の人種民族差別的資料が含まれます)を従業員に対し浴びせるように配布している、という事案です。本件は、当然ながら立法手続きではなく、また刑罰に係る刑事訴訟でもなく、一審被告らの支配する空間における、その具体的な行為についての損害賠償と差止が求められている民事訴訟です。
一審被告らは、その優越的地位を用いて、一審被告会社従業員らの職場空間で、自らの意に沿う言論のみを蔓延させています。一審被告らは、それを、「企業内における言論の自由」、「使用者の表現の自由」、「自由主義・民主主義の根幹」、さらには「使用者の教育権限の行使」などと述べているのです。
2 一審被告らは、本年3月25日付け控訴準備書面でも「言論の封殺がこの裁判の目的」などと主張していますが(10頁)、その書面の7頁において、毎月全従業員に書かせたものから一審被告今井が選別する経営理念感想文について、「社員の学びやモチベーションアップに特につながると考えられた文章を選んで、全社員に配布するものである」と述べています。
その経営理念感想文は、本件の提訴直後の2015(平成27)年9月に、一審被告会社従業員が一審原告を非難等する内容のものが約90名分配布されました。「温情を仇で返すバカ者」「哀れで愚かで、本当にムカつきます」「在日韓国人は新規採用しないでおこうという暗黙のルールができるようにも思えます」などというものでした。
さらに本件の地裁判決直後の昨年(2020(令和2)年)7月にも、再度90名に及ぶ一審被告会社従業員が一審原告や判決を非難する経営理念感想文が配布されました。「日本人だったら何をやっても許されるだろうと思っている思想が根底にあるように思えて、我々日本人の価値観からしてちょっとおかしいと思います」「原告は今も在籍して働いていると思うと虫唾が走ります」「ただただお金が欲しいだけのいちゃもん付けにしか思えません」「さっさと退職して頂き、ご自身に合う会社に就職して頂きたいと思います」「他を陥れることに心血を注ぐ生き方ではなく、在日としての過剰なまでの被害者民族意識を捨て、もっと日本の良さに目を向けられれば、人生も変わっていただろうと思います」などというものでした。
それに加えて一審被告らは、「支援者」などと称し、実際には一審被告今井が代表理事を務める一般社団法人今井光郎文化道徳歴史教育研究会から金銭を交付されている者らが、一審原告と本訴訟について、「おとなしい日本人を狙い撃ちにして、あちら側の人たちは攻撃してくる」、「まったくの不当な言いがかりであり、むしろ被害者は、実質的に既に営業妨害と、名誉を毀損されている『フジ住宅』と今井会長である」などとするブログやメールマガジンも社内で全従業員に配布し続けています。
3 今般、一審原告は、諸外国のハラスメント防止規程を証拠提出しました。例えばアメリカ合衆国のヴァージニア大学では、差別やハラスメントについての申立てに対する報復を禁止しています。同大学は、その禁じる報復を、干渉、制限、懲罰、差別、脅迫または嫌がらせを含むが、これらに限定されない、不利益取扱いと定義しています。
一審原告の本訴訟の提起を、ヴァージニア大学のいう「申立て」であるとすると、さきほど述べた一審被告らの行為は、まさに、一審原告が本訴訟を提起したことに対する報復です。
差別やハラスメントを許さない、という内部規範は、外国に限られず、この日本における多くの企業が共有しているものであることも、今般提出した証拠で明らかにしました。
この点、一審被告会社も「ハラスメント防止規程」(甲216)を定めており、出勤停止や懲戒解雇等の懲戒処分をもって「ハラスメント」を禁じています。そして、その「ハラスメント」の定義を、「職場及び職場外における他の役職員を不快にさせる侮辱的な態度、嫌がらせ、乱暴な言動、性的な言動、その他身体的あるいは精神的に傷つける行為、もしくは同様の行為により、職場及び職場外の環境を悪化させる行為等をいう」としています。
一審被告らは、全従業員に対して、この「ハラスメント防止規程」につき、「受け手へ配慮した発言、行動を心掛けていただきますと共に、必要に応じて社内規程の『ハラスメント防止規程』もご参照いただきますよう、お願いいたします」などと周知しています(甲222)。
しかしこのような「ハラスメント防止規程」がある一審被告会社においては、会社の頂点に立つ者が率先して訴訟提起に対する報復をおこない、従業員をしてそれに追随させているのです。かような行為を、「社員の学びやモチベーションアップに特につながると考えられた文章を選んで、全社員に配布するものである」などと正当化しようするのは断じて許されません。地裁の判決でその違法性を厳しく指摘されたにも拘らず、一審被告らは、人種民族差別的資料、原告個人攻撃の資料の配布を止めるどころか、自己正当化に終始しています。一審被告らによるこれ以上の違法行為を止めるには、法で強制するしかないのです。
以 上